室町時代では、御伽草子が庶民の楽しみの一つであり、近代日本の歴史の中で、「数」を恐れ、忌むものとした時代でもありました。一方、江戸時代では、「塵劫記(じんこうき)」の類書版が出回るほど、「数」を楽しみ娯楽の一つとして捉えた時代で、庶民が「読み書きそろばん」という基礎的な教養を身につけていた時代でした。現在では、計算するという経験が少なくなった時代に突入し品物を買うのに、おつり計算もせず、ローンで購入するときもその利子の計算や「リボ計算」などもしません。額面どおり信用して支払う機会が増えました。日常生活の中で真剣に計算をする環境にはないようです。
明治に生まれた祖母は、当時の尋常小学校4年生で修了していますが、80歳になっても暗算ができ、大正に生まれた母も、80歳を超え認知症になっても施設で行われる簡単な足し算や引き算については、満点を取っていました。四則計算が日常的に行われていたからこそ、高齢者でも計算力が落ちなかったことは当時の尋常小学校算数教育の有り様を垣間見ることができます。明治、大正時代は、算数、数学はまさに計算が主目的でした。現代は、その計算能力という点においては、室町時代と変わらないのではないかと思うことがあります。
現代の高等学校の教科書は、昭和60年代以降には「集合、行列、複素数、ベクトル」などといった科学の急速な発展から、現代数学としての道具が学校教育に施されるようになりました。その関係から、計算に関する教材が悉く消えていきました。特に工学部は性質の結果のみを用いることが教育の主目的となっているような気がします。グラフ処理も計算尺という道具も現在では見なくなりました。数学の世界も「なぜそのようになるのか」の部分を軽視した教育が行われる傾向が強くなった気がします。純粋数学という生活から遊離した事象が扱われることが多くなったことが原因なのかもしれません。
ここでは現代の教科書に消えた問題や身近な問題など数十題の入試問題を取り上げました。明治後期から昭和の初期までのものですが、是非自力で解いてください。「こんなの入試に出すか!」と思われるような煩雑な方程式や当時の世相が理解できる問題に出会います。幾何、図形の問題は省きましたが、私たちの先祖様はこの世な問題にチャレンジしていたことを実感していただければ幸いです。また問題に関する参考として余計なことも述べていますがお許しください。
目次
問題1 大正時代の米の値段(東京女子高等師範学校)
米の値段
問題2 荷物を運ぶ 明治32年 文部省検定教科書 初等代数学 (藤沢利喜太
郎)百貫
問題3 弾丸の速さ(山口高等商業学校)
音の速さ、弾丸の速さ
問題4 昔の船 (早稲田大学)海里
問題5 地球の半径 (海軍兵学校) 地球の半径
海軍兵学校設立のきっかけ
問題6 当時の日当 (山梨高等工業学校)
高杉晋作に数学の必要を教えた中牟田倉之助
問題7 利率 (私立高千穂高等商業学校)
現代の利率、中国の数学書 数学の本「西算啓蒙」
問題8 高等小学算術書
明治42年発行の文部省国定教科書
幕末に大きな影響を及ぼした中国の数学者李善蘭
問題9 遺産相続 大正元年発行の国定教科書、農地改革
問題10 腐った卵 (水産講習所)
卵1個の値段 豊かさとは何か 食料品の値段
平成23年と昭和23年の値段比較
問題11 メートル法(東京高等師範学校)メートル法
問題12 2元2次連立方程式 (東京高等蚕糸学校)
東京府高等学校入学資格検定試験
(1) 数の表記 (2) 月と地球の距離 (3)光の速さ (4) 放射線炭素測定法 (5)
大きさの単位
問題13 3元連立方程式 (秋田鉱山専門学校)
(旅順工科大学) 数学は机上の学問か?
問題14 原文のまま 方程式 (海軍兵学校)
学校設立の経緯 明治末から大正時代の学校
問題15 簡単でない簡単にする問題
(台湾総督府高等商業学校、上田蚕糸専門学校)
養蚕学校
問題16 教科書から消えた無理方程式(長崎高等商業高校、 盛岡農林高等学校
無理方程式 盛岡農林高等学校
資本主義の成立 官営事業所の払い下げ先
問題17 連分数方程式 (東京美術学校、東京帝国大学農学実科)美術学校 嘘つ
きだった一寸法師
問題18 繁雑な計算 (富山薬学専門学校、私立九州薬学専門学校) 俳句は滅亡す
ると唱えた石川啄木
問題19 明治と昭和初期の方程式
明治31年文部省検定教科書初等代数学
昭和9年文部省検定中等算術代数学教科書
数詞は仏教用語
問題20 解きたくない連立方程式 (海軍機関学校)
井原西鶴の「日本永代蔵」「幸せ丸の船出」
問題21 金の値段 (私立筑豊鉱山学校)金の値段
問題22 中学校入試問題的 (西南学院)
インドの数学者 ラマヌジャン
問題23 ありえない問題 (陸軍士官学校)
陸軍士官学校
問題24 開平の意味(海軍機関学校、福島高等商業学校)
明治31年代数学教科書 現代教育の危機
問題25 戦時の物価変動 (高等学校)
日露戦争から第一次世界大戦へ
問題26 出生率、死亡率 (東京高等工業学校)
明治の学生はこの記述で理解できたのでしょうか
難しい日本語 定理
問題27 兵を並べる (陸軍士官学校)
昔の教科書の問題(明治31年、代数学教科書)
問題28 順列・組合せ (東京帝国大学農学実科、熊本高等工業学校)
洗練されていない問題 順列組合せ 黒板の由来
問題29 数列 (広島高等師範学校)
「抛物線」 ⇒ 放物線」の「放」
問題30 保険金受け取り
(各医学大学並びに付属薬学専門部)
もう少し話し合いができたら
問題31 解と係数の関係(慶応義塾大)
問題32 他の解(廣島高等師範学校)
問題33 方程式 (高等学校)
問題34 等式証明(早稲田第一高等学院)
問題35 値を求める(愛知県立医科大学)
問題36 等差数列(明治大学)
問題37 等比数列(南満州医科大学並びに南満医学堂)
問題38 調和数列(富山薬学専門学校)
問題39 実数解 (盛岡農林高等学校)
問題40 井戸の深さ(熊本県立医科大学)
問題41 水車の半径(東京高等工業学校)
尚、解答については手書きで記しています。