世間の目には、緑鶯(りょくおう)という身分卑しい側室は、
どこの正室よりも恵まれた暮らしをしているように映っている。
専房。独占。過ぎるほどの寵愛。
屋敷の中で、彼女に逆らえる者はいない。
――けれど、緑鶯自身はよく分かっていた。
これは「愛」ではない。
ただ、選ばれているだけ。
気まぐれに、囲われているだけ。
確かに彼女は寵されている。
だがそれは、正妻として認められているわけでも、
心を預けられているわけでもなかった。
身分の差。立場の脆さ。
一度飽きられれば、すべては簡単に崩れる。
だからこそ、彼女は欲する。
ただ守られる存在ではなく、
「選ばれ続ける女」になることを。
独占されるだけでは足りない。
溺愛されるだけでも、意味がない。
――彼の“寵”を、“愛”に変えるまで。
その道は、まだ始まったばかりだった。