美しいから、拾った。
危険だから、捨てなかった。
その年の春――
魔教の令嬢・蒋銀蟾(しょう・ぎんせん)は、
煙波立つ江の上で、なぜか魚の獲り方を学んでいた。
網にかかったのは、魚ではない。
月の光を思わせるほど美しい――一人の青年だった。
「天からの贈り物ね」
そう言って彼女は笑い、何の躊躇もなく尋ねる。
「私の面首になる気はない?」
拒めばどうなるか。
割られた木机が、すべてを物語っていた。
怯え、顔を赤らめ、
それでも最後には花のように笑って首を縦に振る青年。
だが蒋銀蟾は、母の言葉を忘れていなかった。
――美しく、鮮やかなものほど、毒を秘めている。
警戒し、試し、見極める日々の中で、
彼女は確信する。
この拾いものは、
やはり――毒だ。
月宮(蟾宮)に名を持つ女と、
正体不明の美貌の男。
甘く危険な主従関係は、
やがて江湖そのものを揺るがしていく。