あらすじ
主人公:五郎・・家族との軋轢により自身を寄る辺なき身の上と思い込んで、大峰山薬師寺に百日詣でを行う。一斗樽を若水で満たし、苦しい急坂を二時間かけて登る難行だ。
満行の前日深夜に巨大台風に遭遇する情報得て、庵に泊まり込み恵真尼と本尊を命懸けで守りぬく。下山後恵真尼と村人の計らいで、みならい僧となり、檀家総代の家を基盤に、広く厳しい勧進の旅が続く。旅先で出会った人々の薫陶を受け、またあるときは修行を積みながらの充実した日々を過ごす。倒壊したお寺の再建費用として、予想外の多な浄財が集まった。人々の善意と願いの象徴だ。
京都から名人と慕われる宮大工の棟梁が呼ばれた。檀家総代の家は工事業者の宿となって毎日が戦場だ。そんな中で恵真尼は五郎が僧籍を取れるよう厳しい日課と教育を行なった。棟梁は古い様式でなく若い感性に訴えるような、白亜のお堂を提案した。
五郎たちは思案の上でそれを受け入れた。
五月三十一日北陸本線の夜行急行で五郎は奈良・薬師寺での僧籍拝授への修行に旅立つた。
ひた走る急行列車中で深い眠りに落ちた五郎に夢の中で真新しい薬師堂の落慶法要の情景が浮かび上がってくる。
漆黒の闇を切り裂くようにひた走る急行列車の後を、いつの間にか現れた五郎の和歌集”巡礼歌”が追っていた。