孟棠(もう・とう)は、誰の目にも理想的な皇后だった。
争わず、奪わず、後宮に静かに咲く“白い蓮”。
皇帝が妃を迎えれば、微笑んで祝福し、寝所まで手配する。
差し出された薬が避妊薬だと知っていても、何も言わずに飲み干す。
暴君と呼ばれる皇帝は、そんな彼女を「善良すぎる」と信じて疑わなかった。
ある日、旧病に苦しむ彼のため、孟棠は自らの血を引き、痛みを和らげる。
「どうして、そこまでできる?」
彼女は穏やかに答える。
「陛下のために尽くせることが、臣妾の喜びです」
――すべて、完璧な演技だった。
反乱軍が城を包囲した日、孟棠は城楼から身を投げ、その死によって動乱は鎮められる。
誰もが彼女を、“国を救った聖后”だと称えた。
だが真実は違う。
好感度を稼ぎ切り、役目を終えた彼女は、静かに舞台を降りただけだった。
泣き崩れる皇帝を遠くから眺め、孟棠は淡々と思う。
――残酷?
いいえ、全部、私が演じただけ。
本当に無償で、何も求めない“白蓮”など、この世に存在しないのだから。