世間皆知っている、燕郡王の世子・陸雲門は長安で最も純粋無垢な若者だと。
若き臣下として、己に克ち礼を重んじ、人目がなくても慎み深く行動する。その美しさは比類ない。
しかしある日、彼は下級官吏の家から逃げ出してきた庶子の娘を庇うことになる。
彼女はいつも、無邪気で美しい黒ぶどうのような瞳を大きく見開き、彼が飼っている不器用な大きな猫を撫でながら、彼のそばでこう囁くのだった。
「このお菓子、美味しいですか? 嫡出の姉が食べているのを見たことあるだけなんです」
「私も字を読んだり、本を読みたいなあ……」
「馬に触ったこと、まだないんです!」
「私は雷雨の日に暗い部屋に閉じ込められたことがあって……暗いのと雷が怖いんです」
一つひとつの言葉が、彼が自ら定めたすべての規則を破らせ、神壇から引きずり下ろすこととなった。
それから間もなく、彼女の正体が思わぬ事件で明らかになる。
彼女は長公主と駙馬爺の掌中の珠。
当代の皇帝が最も寵愛する孫娘。
彼女は育ちが良く、万巻の書を読み、馬背を縦横に駆け……簪の儀(成人式)を迎える前から、皇帝直々に郡主に封じられ、並々ならぬ寵愛を受けていたのだった。
彼女は彼に、一言も真実を語ったことはなかった。