雨の中、彼女は立ちつくして、思案していた。と、後ろから突然、黙って彼女に傘を差しかけてくれた者があった。振り返ると、同じクラスの三井君だった。彼はちょっと恥ずかしそうに笑うと、鼻の横を掻いた。
「学校に置きっぱなしにしといたボロ傘だけど…、けっこう役に立つもんだ。…ずぶぬれになるよりは、増しだと思うけど…」
アヤメもちょっと笑って、ありがとう、と言った。三井君はまた鼻の横を掻いた。それから周囲を見回し、雨に打たれて楚々と咲き匂う、アヤメに視線を止めると、ぶつぶつと呟いた。
「雨の中、何やらゆかし、アヤメ草…」
「なーに、それ?」
三井君は今度は頭を掻いた。
「オレの一句…」
アヤメはクスクス笑った。二人はお互いの顔を見合った。お互いの目と目が出合い、余りに間近でお互いの顔を見つめあってしまった。二人は慌てて視線をそらした。それでも何はともあれ、二人は一つの傘の中、肩を並べて歩き出した。
ショート作品 文字数 3330文字