南鳴書院に、ひとりの少年が現れた。
気品高く、清冷にして華やか――洛朝朝は友として言葉を交わそうとするが、彼は高みから見下ろすばかりで、相手にもされない。
「ふん。別に、友など欲しくない」
ところが彼は、絵も書も見事、棋にも長け、
ついには師が洛朝朝の落書き同然の画と、賀霖佑の作を並べて評したため、笑いの的となる。
「……ますます嫌い」
数日後、賭けが持ち上がる。
もし賀霖佑と友になれたなら、読みきれぬ話本と、一年分の糖葫芦を与える、と。
「造作もないこと」
事実、難しくはなかった。
ただし、手が痺れるまで書に付き合い、眠気に抗って読書をし、夜半まで碁盤を囲む覚悟が要っただけだ。
投げ出そうとするたび、少年は淡々と言う。
「行けばいい。来月の月試に落ちても、百遍写すだけのことだ」
洛朝朝は涙目でうなだれる。
「……私が悪うございました」
――
やがて書院中が知るところとなる。
賀霖佑が肩入れするのは、洛朝朝ただ一人。
課業を見、菓子を携え、没収された話本のために師へ掛け合う。
夜ごと共に机を囲むのも、ただ彼女が年試を越え、共に進むためであった。
しかし、賭けのために近づいたという真実は、ついに露見する。
少年は怒ることもなく、静かに告げた。
「おめでとう、洛――賭けは勝ちだ」
その日を境に、賀霖佑は姿を消す。
謝る機会すら得られぬまま、三年が過ぎた。
かつて書院にて群を抜く美貌を誇った少年は、今や皇太子として馬上にあり、雑踏の中で彼女に一瞥も与えない。
洛朝朝は胸を痛めつつも、どこか安堵し、心中で呟く。
「……この謝罪は、来世まで取っておこう」
三日後、太子妃選定の宴に招かれた洛朝朝は、陰謀により湖へと突き落とされる。
息も絶え絶えに目を開けた先にいたのは、忘れ得ぬその人であった。
彼女は彼の頬をつねり、問う。
「……私は、もう死んだの?」
星のような瞳を細め、少年は静かに言う。
「その手を斬るか、太子妃となるか――選べ」