上京で最も注目を集める新進気鋭の権臣、赫連煜(かくれん・いく)。
武名も家柄も申し分なく、英武にして桁外れの存在――だが同時に、誰も飼い慣らせぬ猛き鷹でもあった。
門第は高すぎ、気性は荒すぎる。良縁とは程遠い男。
そんな男のもとへ、ある冬の夜、ひとりの女が無乩館を訪れる。
雪の中に立つその姿は、俗世に迷い落ちた仙のごとく清絶で、彼女はただ一つ願う。
――人生を、やり直す機会を。
赫連煜は微笑む。
欲しかった獲物が、自ら門を叩いたのだ。
「怖がるな。俺を選んだ以上、面倒はすべて片づけてやる」
やがて彼女は、赫連煜の心の最奥に棲みつく存在となる。
京城では囁かれる――無乩館には、赫連小王爺が金屋に隠した女がいる、と。
あの風流無双の男を、膝下に従わせた女だ、と。
赫連煜は本気だった。
三書六礼を尽くし、正妻として迎え入れる覚悟すら固める。
だが彼女は、その想いを拒む。
「二年だけ。終わったら、私を自由にして――約束でしょう?」
*
秦楽窈(しん・らくよう)は、生涯ただ自由を愛した。
檻に入るために、彼を選んだのではない。
約束の期限が迫り、彼女は上京を去ろうとする。
旧師・蕭敬舟の助けを借り、密かに船へ――。
だが出航間近、行く手を塞いだのは赫連煜だった。
陰を帯びた眼差しで、彼女の隣に座る“特別な男”を見据える。
「俺を拒み、婚も拒んだ。その上で――あいつと行くのか?」
低く、切実に告げる。
「窈窈、戻ってこい。
他のことは、すべて――お前の望む通りにする」