「新しいものを喜び、古きを厭うような者に、愛がわかるものか」
権勢を手にした彼女は、自分よりさらに高位にある彼を見初め、巧みに誘い、そして捨てた。狂気の愛の詐欺師 vs 狂おしく騙され続ける“小さな仙人”——
循循(じゅんじゅん)が太子と富貴を謀る前に、まず騙したのは、江(こう)家の若き世子(せいし)だった。
彼を自分の“閨(ねや)の客”として。
数年後、窮地に陥った循循は、その江の世子に再び助けを求める。
春宵一度、帷(とばり)が翻る。
彼の煩わしさから逃れようと、循循は嘘の嗚咽(おえつ)をまじえて言う。
「どうか私のことなどお忘れください。良いお世子妃(せいしひ)をお迎えになって…父上に、また私が狐のような女だなどとお叱りを受けませんように」
帷の向こうの灯りが、青年の優美で背の高い姿を長く映し出す。
しばし沈黙して、彼は言った。
「なぜ俺がお前を忘れねばならん。お前が…奴を忘れぬというのか」
江鷺(こう ろ)は高潔で澄みきり、静謐(せいひつ)な、この世で最も美しい“公子(こうし)”であった。
少年の頃、彼は一人の理想の女性に出会う。
あれこれ奔走し、ようやく父親を説得して、家柄は貧しく病弱ながらも心優しいその女性を妻に迎えることを許させた。
ところが、有頂天になる彼を待っていたのは、恋人の病死の知らせ。以来、彼の心は灰のようになり、深く傷ついた。
それから三年後、太子の誕生を祝うため京へ上った彼は、太子の側に、”蘇生”したかのようにたたずむ彼女を見出す。
上品に微笑み、淑やかに佇むその姿は、まぎれもないあの佳人であった。
…死を偽ったのは彼女だった。
騙され続けた愚か者は、自分だったのだ。