『長尾玲子 画集』のために
この本は、私の亡き妻の残した(相当量の)絵画作品の(ほんの)一端を示すものです。
妻とは新潟大学医学部の同窓生でありました(私はその後、別の道を辿ったのですが)。
妻は常々、自分は医師にななるか、それとも画家になるかで、迷っていたと言っていました。
そして、医者になって人生を終えましたが、絵に対する渇望、已み難いものがあって、絵も描き続けました。
あまり、有力な画壇には属することはありませんでしたが、幾つかの集団の中で制作を続け、
作品数も決して少なくはなかったのです。
この作品集は、それらの遺作のなかから、ほんの少数を選別したものですが、
特に言うなら、仕上がった油絵タブローよりも、残された膨大量のクロッキーに重点を置いたものです。
妻は、風景も人物も静物もみなよく描きましたが、特に人物はデッサン力がものを言うともいわれます。
その意味でも、残されたデッサンはそのままで味わい深いものであることが観ていただけるのではないか、
というのが編者としての私の願いです。
余談というには重い話なのではあるのですが、妻は晩年、十有余年にわたり、パーキンソン病と戦い続け、
八年ほど前の、時あたかも終戦記念日に他界しました。
その間、私は介護退職こそしなかったものの、社会性(社交性)をほとんど放棄して世捨て人然として過ごしました(あの3・11の夜などは、独り寝る妻を心掛けつつも、大学で学長をはじめとする人々と雑魚寝をして夜を過ごして、翌朝、電車開通次第に「朝帰り」したものでした)。
その介護の時も、私は時々鉢植えの花卉を買い求めてきて、彼女はそれを水彩で描くのが主な楽しみであったように思います。
そのような作品集を皆様のご照覧に呈するとともに、妻への一掬の鎮魂歌として、本書を編んだ次第です。
愛すべきものに仕上がっていると密かに期待するのですが...
編者 長尾 史郎